
放射線治療
放射線治療とは
がんにかかった場合の一般的な治療法(がん治療の「三大療法」)のひとつです。
※がん治療の「三大療法」:近年、これに第四のがん治療法といわれる免疫療法も注目されています。
- 外科療法
がんの原発巣(最初にがんが発生した部位)や転移巣を切り取る治療で、一般的には手術療法ともいいます。治癒手術(根治手術)を目指して行われます。
- 化学療法
化学物質(抗がん剤や分子標的薬)を用いてがん細胞の分裂を抑えたり、破壊したりする治療法です。広い意味でホルモン療法も含まれます。
- 放射線治療法
X線やγ(ガンマ)線、粒子線といった放射線を照射するとがん細胞は分裂ができなくなり、増殖が抑えられたり死滅したりします。周囲の正常な細胞も放射線によってダメージ(障害)を受けますが、このダメージをできるだけ少なくし、がん細胞に最大の効果を発揮できるように治療するのが放射線療法です。
※現在は一般的に複数のがん治療法を組み合わせ、それぞれを補い合い治療を行う「集学的治療」が主流となっています。
放射線治療の種類
放射線治療法には手術療法との併用、化学療法との併用、放射線治療単独があり、手術との併用では照射する時期によって、次の3つに分けれられます。
- 術前照射:切除根治性の向上や手術適応の拡大、手術操作による転移、播種の抑制が目的
- 術中照射:外部照射の対象にならない放射線低感受性腫瘍が対象。大線量の1回投与や重要な臓器を術中操作で照射野から外すことができる等の利点がある
- 術後照射:切除後の顕微鏡レベルまたは肉眼的な残存病巣に対する放射線治療や再発予防目的の放射線治療
放射線治療の特徴
- 手術療法と同じくがんとその周囲のみを治療する局所療法です。
- 手術と異なり臓器を切除しないので臓器(機能)を温存できます。
- がんを治癒させる根治的治療から痛みや神経症状等を軽減する緩和的治療まで幅広く対応できます。
- 放射線治療時には痛みや熱さ、苦しみなどはなく、何も感じません。
- 治療効果はじっくりと出てくるのが普通で、効果が最大に出てくるのは治療終了して約1ヶ月後です。
- 最近のコンピューターの技術や医療機器の進歩により病巣をピンポイントで狙うことが可能になり、症例によっては病巣に多くの放射線量を照射することができ、周りの正常組織には放射線量をできるだけ少なくすることができるようになりました。
- 症例によっては入院せずに仕事や日常生活を維持しながらの外来通院での治療も可能です。
- 放射線による有害事象は基本的に放射線を照射した部位にしか出ませんので、例えば胸部に照射しても髪の毛が抜けるということはありません。
放射線治療装置の紹介
当院では医療用直線加速装置(リニアック)を用いた外部照射を行っています。2009年9月に機器更新を行い、最新の装置になりました。
※リニアックはエックス線や電子線などの放射線を照射してがんなどを治療する装置です。
・エレクタ社製 シナジー(Synergy)
X線エネルギー:4、6、10MV
電子線エネルギー:4、6、8、10、12、15MeV
放射線の種類(X線、電子線)及びエネルギーの選択は、個々の症例に応じて治療医の判断により決定します。
当院の放射線治療の特徴
- 位置確認用CT装備(XVI)による画像誘導下放射線治療(IGRT)が可能
リニアックの回転ガントリ部に3次元のCT画像を撮影できる装置(XVI)を装備していますので、画像誘下導放射線治療(IGRT)が行うことができます。このXVIは通常の画像診断で使用されるkV(キロボルト)電圧のX線で撮影しますので、軟部組織まで描出することができ、骨だけでなく病変部そのものも直接確認することが可能です。実際には患者さんが治療を行う直前にベッド(治療寝台)に寝た状態のままでCT画像を撮影し、事前に撮影しておいた治療計画用CT画像と今回治療直前に取得したCT画像を重ね合わせることで治療する部位での位置のずれ量を求め、それを基にして治療寝台の位置を補正し正確な位置合わせを治療直前に行うことができます。さらに、この治療直前のCT画像により、実際に治療を行う病変の位置・形状・サイズも確認できますので、安心・確信を持って治療を行うことができます。これらにより高い精度の放射線治療を行なっています。
※状況によっては治療時にCT撮影を行わない場合もあります。
- 6軸位置補正の寝台および赤外線位置情報システムの装備
患者さんには毎回同じように同じ位置に寝ていただくために固定具を使用し、さらに体表面や固定具に位置合わせのための基準点を記入します。しかしこれらを使った位置合わせはあくまでも体表面での位置合わせですので、体の内部まで位置合わせする事は困難で、毎回同じ様に寝ているように見えてもねじれを生じていることがよくあります。これらを補正するために当院の治療寝台は通常の治療寝台の縦、横、高さ方向の移動に加え、それぞれの方向の回転角度を補正することができる6軸位置補正可能な治療寝台です。寝台の位置・移動量は治療時に取付けるフレーム上にあるマーカーを天井にある赤外線カメラで追尾することにより正確に把握しています。
- 固定具の使用
当院では上記のように正確に位置合わせをして放射線治療を行なっていますが、治療中に患者さんが無意識にでも動いてしまうと正確に位置合わせした意味がなくなってしまします。そのために治療中の患者さんの動きをできるだけ抑える目的で、特殊照射だけでなく通常照射においても固定具を使用して放射線治療を行っています。
※状況によっては固定具を使用しない場合もあります。
- 一般(通常)照射から特殊照射まで幅広く対応
- 通常照射
原則、体のどの部分でも治療可能です。症例により1門(1方向)〜多門(複数方向)照射、回転原体照射を行います。通常1日1回の治療を週5回ずつ行い、1〜2ヶ月程度の治療期間を要します。なお、症例によっては1日2回照射を行ったり1回照射など短期間照射を行ったりする場合があります。
- 強度変調放射線治療(IMRT)
放射線治療計画システムを用いて、1方向のなかでも放射線の強弱をつけ、複数方向の放射線を組み合わせることにより、腫瘍部分のみに放射線を集中させ正常組織への影響を極力減らすことが可能な画期的な治療法です。これにより腫瘍制御率の向上や有害事象の軽減が期待できます。
- 回転型強度変調放射線治療(VMAT)
日本で従来行われてきた回転原体照射に強度変調放射線治療(IMRT)の機能を加えた最新の照射法です。ガントリを回転させながら、ガントリ回転速度、マルチリーフコリメーター、バックアップダイアフラム、線量率をダイナミックに動作し、強度変調を行います。従来の強度変調放射線治療(IMRT)に比べ短い照射時間(1分30秒から3分程度)での治療が可能となります。当院でも2010年12月から前立腺がんに対し運用を開始しました。
- 定位放射線治療(SRT)
治療効果を高め、病巣周辺の正常組織への影響を軽減させることを目的に、病巣に対しガントリヘッドや寝台の回転を組み合わせて多方向から放射線を集中させる方法です。正確な位置精度や固定精度は0.1mm単位で管理されています。治療回数は4〜5回で、1回につき4〜10方向から通常より高い放射線量を照射します。現在の施行部位は脳、肺、肝臓です。
- 4次元コーンビームCT(4D-CBCT)による寝台補正機能「Symmetry」の採用
エレクタ社のソフトウェア「XVI-Symmetry」は、呼吸性移動を伴う腫瘍に対する放射線治療において、4D-CBCTを撮影することで、呼吸性移動を加味した位置照合を行うことができます。
自由呼吸下で収集された1回転4分間のコーンビームCTデータから横隔膜の動きをキーにして位相分けを行い、10分割した各呼吸位相ごとの腫瘍位置と、その位置での存在時間を把握し、これらを元に位置補正を行っています。
4D-CBCTのデータを治療計画に反映することで、適切なITV(内的標的体積)設定ができ、さらに治療時にもITV内にきちんとターゲットが入っているか確認、修正ができるため、自由呼吸下の照射においても、病変部に正確に照射することができ、正常組織への不必要な高線量照射を避けることができます。
頭部定位放射線治療
体幹部定位放射線治療
放射線治療計画システム
当院では治療方法により3種類の放射線治療計画装置を使い分けています。
- XiO(エクシオ:通常照射、体幹部定位照射用)
- ERGO++(エルゴ:頭部定位照射、前立腺VMAT用)
- Monaco(モナコ:IMRT、VMAT用)
固定具の紹介
個々に治療部位に合わせて作成したものと、汎用のものとを組み合わせて使用します。



治療のすすめかた
一般的な放射線治療の流れを示します.治療期間は対象によって異なります。
- 放射線科を受診
治療専門医が放射線治療について説明します(同意書をお渡しします)
治療開始日時などを決めます
- 固定具の作成
- CTによる治療計画用画像撮影
☆初日はここまで終了です。
- 治療計画(照射野、照射方向、1回線量、分割回数等決めます)
- 治療計画データ検証作業
- 治療開始(この時までに同意書提出)
外来の方は、外来受付を済ませて地下1階にある高エネルギー治療室へお越し下さい。他科受診や予約時間変更がある場合はお知らせください。入院して治療される方は治療時に病棟に連絡します。
基本的には月曜〜金曜の週5日連続で治療します。
※週の間に祝日がある場合は土曜日に行う場合があります。また年末年始やゴールデンウィークも可能な限り治療を行います。
※第一段階の予定線量に達したら再度位置合わせCTを撮影して照射方法を変更(照射野、照射方向等)する場合があります。
- 最終予定線量に達したら治療終了です。
- 治療後の経過観察に関しては現時点では原則として各診療科・紹介元の主治医にお願いしており、当科では時々様子観察としています。
治療期間について
放射線治療は、どんな目的で(根治、予防、緩和治療等)、どの部位に、どんな種類(エックス線または電子線)の放射線を、どの方向から、どれくらいの線量を当てるか、正常組織の線量をどれくらいに抑えるか、など様々な要因を考慮して決定します。したがって症例毎に治療期間は異なりますので軽症だから回数が少ない、重症だから回数が多いなどということはありません。
安全対策
放射線治療において3名の治療専任の診療放射線技師(内2名は放射線治療専門技師、1名は放射線治療品質管理士)を配置し、常時2名以上でダブルチェックを行いながら放射線治療を行う体制としています。
放射線治療計画を行う前に放射線治療データベースで情報の登録作業を行います。このデータベースには、当院での放射線治療開始時点(平成8年4月)からの情報(患者ID、名前、生年月日、連絡先、基礎疾患名、疾患分類、照射部位、照射方法、分割数、1回線量、総線量等)が登録されており、当院での放射線治療履歴が確認できます。なお患者確認を確実にするために顔写真を最初の治療時に撮影しておりますので、このデータベースにも登録しています。
また放射線治療計画した内容が適切かどうか確認するために線量計算ソフトやフィルム・ファントム(擬似物体)への照射により検証を行います。その結果を治療専門医と診療放射線技師の両者で確認し、適切であることを確認した後、治療装置の設定に必要なデータを治療計画装置から直接、治療装置の制御器にネットワークを通じて送信します。さらに治療装置制御器側で内容確認を行い、放射線治療データベースに治療装置設定データを送信します。
日常の放射線治療では、先ず放射線治療データベースで該当データを展開し、治療の進捗状況を確認します。次に照射対象の門番号を選択し、内容を確認します。問題なければ治療装置への送信ボタンを押すと、治療装置に必要なデータが送られ、自動的に放射線の種類とエネルギー、照射野、ガントリ角度、線量値等が設定されます。これらのプリセット値と実際の設定が異なると、治療装置にインターロックが掛かり照射できません。
このように、できるだけ人為的ミスを無くすようなシステムを構築し、安全に放射線治療が遂行できるように努力しています。
VMATによる前立腺がん治療について
VMATでの前立腺がん治療の主な手順を示します。
この治療に関しては高精度の治療計画や多岐にわたる線量検証作業が必要であるために、初回の放射線科受診から治療開始まで現時点で約2週間の期間を必要としています(治療開始まで約2週間を要します)。
治療計画
治療計画は主に2台の治療計画装置(Monaco・Ergo)を使用します。がんに高い線量を集中させ周囲の正常組織への影響が少ない治療計画を得る為、様々な値を変化させて複数の線量分布を作成します。
当院で使用している治療計画装置Monacoは現在使用可能な線量計算アルゴリズムの中で最も正確な「モンテカルロ」を使用しています。
下の図は前立腺がんの治療計画です。赤色から青色になるに従って放射線量が少なくなります。前立腺の放射線治療では真後ろにある直腸の線量が問題となりますが、VMATにより直腸の線量を軽減する治療計画ができ、これにより前立腺に高い放射線量を集中させ、直腸出血などの有害事象のリスクを減らすことができます。
相対線量評価(フィルム法での検証)
疑似物体(水使用汎用ファントムRT-3000-New-Water)にフィルムをセットし実際に照射し、黒化したフィルムをスキャナーでスキャンして得られた結果を、治療計画装置が出力した各断面(Axial:横断面.Sagital:矢状面.Coronal:冠状面)の線量分布とDD-Systemにて比較検証を行い、適切かどうか判断します。この検証を行う為には使用するフィルム(ガフクロミックフィルム)が製造ロット番号による個体差があるために線量−濃度変換テーブルを作成する必要があり、エネルギー毎かつ測定から検証までの時間毎に数パターンのフィルムスキャンデータを取得し、使用しています。
相対線量評価(電離箱での検証)
疑似物体(水使用汎用ファントムRT-3000-New-Water)に実際に照射し、ファントムの中心および中心から2.5cm地点の周囲6点、合計7点のポイント線量を電離箱で測定し、治療計画装置が計算した線量と比較検証を行い、適切かどうか判断します。
Delta4(デルタフォー):3次元線量検証システム
臨床プランをDelta4へ照射し、治療計画装置が出力した各断面(Axial.Sagital.Coronal)の線量分布と各地点での実線量を、Delta4で得られた線量・分布と比較検証を行い、適切かどうか判断しています。
※Delta4の特徴:絶対線量評価と相対線量評価が一度に可能
- 高性能p-typeシリコン半導体検出器を1069個配置
- 直交2面の構造により、360度方向からの照射を検出可能
- リニアックのパルス信号に同期して細かいデータ取得を行うため、様々な解析に対応可能
- 治療時と同等の照射を行うため、ガントリ角度によるたわみの影響・カウチによる線量減衰等の影響を考慮に入れた検証が可能
- 一度の照射でフラクション、門ごと、セグメントごとなど幅広い検証が可能
以上の一連の作業を行い、日本放射線腫瘍学会(JASTRO)ガイドラインを参考に最終確認します。
最終的にどの計画装置のどのデータを採用するかは治療専門医が最終判断し、治療開始となります。
お問い合わせ先
公立八女総合病院 地下1階 高エネルギー治療室
電話番号:0943-23-4131
担当放射線治療専門医:水上 直久(みずかみ なおひさ)