
ペットから感染する病気があるからといって、ペットは恐いと思う必要は全くない。現代の人間社会にとってペットは必要なもので、生活を豊かにし、病気の治療にも使われるなど役に立っていることも多い。正しい知識を持っていれば、ペットと一緒に健康で快適かつ幸福な生活を送ることができる。
| 病名 | 動物 | 感染経路 | 症状 | 予防 |
|---|---|---|---|---|
| ネコひっかき病 | ネコ イヌ |
ひっかき傷 咬傷 ネコノミ刺傷 |
初期皮膚病巣 リンパ節の腫れ 発熱、脳症 |
ネコノミ駆除 ネコの爪切り 傷の処置 |
| パスツレラ症 | ネコ イヌ |
ひっかき傷 咬傷 空気感染 |
蜂窩織炎、関節炎 骨髄炎、リンパ節の腫れ 肺炎 |
濃厚な接触を避ける 傷の処置 |
| オウム病 | インコ オウム |
空気感染 | 咳、発熱、肺炎 | 糞便や羽毛の処理 |
| Q熱 | ネコ | 空気感染 | 発熱、頭痛 肺炎<、肝炎 Q熱性疲労症候群 |
分娩前後の動物に注意 |
| 皮膚糸状菌症(白癬) | ネコ イヌ |
接触感染 | 発疹 皮膚炎 |
ペットと飼育環境を清潔に |
| イヌ・ネコ回虫症 | イヌ ネコ |
経口感染 | 発熱、肝臓の腫れ 視力障害 |
糞便の処理 ペットの便検査と駆虫 |
| トキソプラズマ症 | ネコ | 経口感染 | 発熱、リンパ節の腫れ 先天性トキソプラズマ症 |
糞便の処理 手洗い ネコの便検査 |
| サルモネラ症 | 爬虫類 哺乳類 トリ |
経口感染 | 腹痛、下痢、嘔吐 発熱、敗血症 |
糞便の処理 手洗い |
| カンピロバクター症 | イヌ ネコ トリ |
経口感染 | 腹痛、下痢、嘔吐 発熱、敗血症 |
糞便の処理 手洗い |
| エルシニア症 | イヌ ネコ ネズミ |
経口感染 | 腹痛、下痢、嘔吐 発熱、敗血症 |
糞便の処理 手洗い |
| 1.ネコひっかき病 | 126 |
| 2.オウム病 | 87 |
| 3.皮膚糸状菌症(白癬症) | 57 |
| 4.トキソプラズマ症 | 49 |
| 5.ルモネラ腸炎 | 21 |
| 6.カンピロバクタ−腸炎 | 18 |
| 7.クリプトコッカス症 | 11 |
| 8.トキソカラ症(イヌ・ネコ蛔虫症) | 10 |
| 9.疥癬 | 5 |
| 10.パスツレラ症など | 1 |
(最近5年間、福岡市および神戸市)
(内田幸憲:感染症誌、Vol75、No.4より抜粋)
猫ひっかき病の病原体はバルトネラ・ヘンゼレという細菌。この菌に感染した猫にひっかかれたり、咬まれたりすることにより、傷口やリンパ節に炎症をおこす病気です。
バルトネラ菌は、もともと猫につく猫ノミがもっています。猫ノミから猫にバルトネラ菌が感染し、その猫からひっかかれたり、咬まれたりすることにより人に感染します。日本の猫の約7%がバルトネラ菌を保菌していますが、北海道や東北の猫の保菌率は低く、西日本の猫の保菌率が高いので、暖い地方に多い病気です。また、猫ひっかき病の発生には季節性がみられ、7月〜12月(夏から初冬)に多く、気温が高くなる夏に猫ノミの活動性が高まり、保菌猫が増加するためと考えられています。
猫ひっかき病は猫の口や爪に存在するバルトネラ菌がひっかき傷や咬傷から侵入して感染が成立し、受傷後数日〜2週間で受傷部位の皮膚に赤紫色の丘疹や膿疱をつくります。また、ひっかかれた傷がいつもの傷に比べて治りが遅いと自覚する程度の発赤で終ることもあります。これらの皮膚の変化は初期皮膚病巣と呼ばれ、猫ひっかき病の初期にみられる症状です。
さらに数日〜数週間後に受傷部位の所属リンパ節(手→腋の下や肘、足→足の付け根)の腫れがみられます。リンパ節腫大は猫ひっかき病の代表的な症状で、ほとんどの患者さんにみられます。痛みを伴うことが多く、卵大の大きさになることもあります(図7、8)。受傷からリンパ節腫大までの潜伏期は5〜50日(平均17.6日)で、2〜3週間のことが多いようです。
猫ひっかき病の病理組織所見は膿瘍形成性肉芽腫で、ラングハンス型巨細胞がみられることもあります。ワーチン・スターリー染色ではバルトネラ菌は緑色に染色され、リンパ節のマクロファージなどの細胞内にみられます。(図11)
発熱は2/3の患者さんにみられ、38℃以上の高熱がでるのはその約半数です。頭痛や体の倦怠感を訴えたり、肝臓の腫大や肝障害がみられることもあります。極めて頻度は少ないのですが、眼の網膜や視神経に炎症をおこして一過性の視力障害をおこすこともあります。
猫ひっかき病の原因動物の90%以上が猫であり、その70%が1才未満の子猫でした。一方、犬から感染することもありますから注意が必要です。発症原因はひっかき傷が46%、咬傷が8%でした。従って、ひっかかれたり、咬まれないように注意しましょう。猫の爪は切って、短くしておくことも有効な予防法です。
また、明らかに猫にひっかかれたり、咬まれたりしたことがないのに猫ひっかき病を発病した人が40%もいました。これは、目に見えない小さな傷から菌が侵入したと考えられます。一緒に寝たり、口移しで食べ物を与えるなど濃厚な接触は避けて、なめられたり、遊んだ後は手を洗うなど節度あるペットとの生活を心がけましょう。猫やその飼育環境を清潔に保ち、特にノミ対策は大切で、早めのノミ対策で猫ひっかき病を予防しましょう。
猫にひっかかれたり、咬まれた時は傷口をよく洗って消毒をすることが大切です。傷がひどい場合や深い時は病院で傷の処置を受けてください。猫ひっかき病以外にもパスツレラ症などの危険がありますので、予防的に抗菌薬などの投与が必要なこともあります。また、猫ひっかき病は人から人へ感染することはありません。
我が国でも猫の飼育頭数(約800万頭)の増加とともに猫ひっかき病の報告も増加しています。欧米に比して、猫ひっかき病などのペットから感染する病気(動物由来感染症)に対しての認識が薄く、医師が正確に診断できないこともあります。問診の際にペットを飼っていることを医師に告げることが正確な診断ができるきっかけになります。
猫ひっかき病は軽い場合は自然に治ります。重い場合は抗菌薬が有効です。抗菌薬の投与によってもリンパ節の腫れが治りにくい時は表面の皮膚を小切開し、注射針による膿汁の吸引がリンパ節の縮小や痛みの緩和に有効です(図12)。リンパ節の腫れが治るには10日〜数ヶ月(平均41日)かかります。
コンパニオンアニマルである猫や犬と健康で快適に生活するためには、猫ひっかき病などの動物由来感染症に対する正しい知識と理解が必要です。











